華手はで)” の例文
そこには華手はでなモスリンの端切はぎれが乱雲の中に現われたにじのようにしっとり朝露にしめったままきたない馬力の上にしまい忘られていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
小虎は華手はでに抜手まで切って見せた。併しそれは僅かの間であった。坊主の云ったのは確実で、忽ち細長い藻の先が足に搦んだ。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
その昔、下町の華族女学校といわれたほど、校風も生徒も華手はでである美和子の女学校は、お友達もみな相当の、お金持の家の娘ばかりであった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そのなかに秋子の華手はでな鼻緒のもちやんと交つて、母親の地味な下駄の隣りに引つ附いて脱ぎててあるのだ。わたしは何だか感動した。老年らしい感動だつた。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
中には彼ともう一人、女優のように華手はでなシャルムーズを着た女が坐っていた。馬車は大きな音を立てながら、橋を渡って揺れて行った。彼の心は奇妙と明るかった。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
それに先生は教育家で、何方どちらかといえばじみな商売、我輩は政治家で本来華手はでな商売であるから、他人からの見た目は非常に違うが、その行き方は恐らく少しも違わない。
柳橋、堀、吉原の華手はでやかなところはもとより諸家さま、お旗本衆——日頃御直おじき直きには、中々お顔をお見せにならぬお人たちも、今度は幕を張っての御見物のように承わります。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「奥様(浪子の継母)は御自分は華手はでがお好きなくせに、お嬢様にはいやアな、じみなものばかり、買っておあげなさる」とつねにつぶやきしうばの幾が、嫁入りじたくの薄きを気にして
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
料理屋を兼ねた旅館のに似合わしい華手はで縮緬ちりめんの夜具の上にはもうだいぶ高くなったらしい秋の日の光が障子しょうじ越しにさしていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
光をつつめる女の、言葉多からず起居たちいにしとやかなれば、見たる所は目より鼻にぬけるほど華手はでには見えねど、不なれながらもよくこちの気を飲み込みて機転もきき、第一心がけの殊勝なるを
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
しかし、生活ぶりが、華手はでだったので、一昨年脳溢血のういっけつで死んだときは、金はいくらも残っていなかった。そして華手な生活ぶりと、金の事を気にしないルーズな性格とだけが遺族の上に遺されていた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
がかげる頃に彼れは居酒屋を出て反物屋たんものやによって華手はでなモスリンの端切はぎれを買った。またビールの小瓶こびんを三本と油糟あぶらかすとを馬車に積んだ。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
きのう上陸した時から葉子を見知っているかのように、その飛び放れて華手はで造りな姿に目を定めるらしかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ちょっとでもじっとしていられない葉子は、日本で着ようとは思わなかったので、西洋向きに注文した華手はですぎるような綿入れに手を通しながら、とつ追いつ考えた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その時先頭にいた馬は娘の華手はでな着物に驚いたのか、さっときれて仁右衛門の馬の前に出た。と思う暇もなく仁右衛門は空中に飛び上って、やがてたたきつけられるように地面に転がっていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)