あば)” の例文
幼時は、父こそちがうが、秀吉と同じ尾張中村のあばに生れ、同じ母のひざに甘え、同じ貧苦と寒飢かんきの中に育てられてきた骨肉である。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
泊りを求めたあばら家で夜半あやしき煙りが立つから破れ障子から奥の間を覗いて見ると
「いや、わしらというのは、誇りがましい、念仏の声のわく所——じゃ」こんなひどいあばと食物とに生きながら、夏も一人の病人も出なかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宿場といっても、ひどいあばら屋が、薄暗い燈芯とうしんの明りを洩らして、三、四十軒ほどあるに過ぎなかった。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、ちょうど、女の白い襟あしの上に、仏壇の燈明、ほのかにゆれているのだった。家具らしい物はほかに何もなく、外納屋に、手を入れたくらいな、あばだった。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ええ、どうぞもう。……あばですが、長屋も気らく。宅でお休み下さっても」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人は待春まつはるとか年暮くれとかいえ、源内兵衛げんないひょうえは秋からの布子ぬのこ一袖。はなたれの子、しらくも頭の子、ひかんみの子、乳の出ぬ乳に泣く子と吠える女房などの住むあばから、この布令ふれを知ると飛び出して
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一軒のあばを見ても呶鳴り、一つの部落を通っても呼ばわった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)