花野はなの)” の例文
かつて考へた三個の世界のうちで、第二第三の世界は正に此一団の影で代表されてゐる。影の半分は薄黒い。半分は花野はなのの如く明かである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
にははさながら花野はなのなり桔梗ききやう刈萱かるかや女郎花をみなへし我亦紅われもこう瑠璃るりける朝顏あさがほも、弱竹なよたけのまゝ漕惱こぎなやめば、むらさきと、と、薄藍うすあゐと、きまどひ、しづなびく。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
極楽ごくらくに行く人送る花野はなのかな
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
花野はなのたてのひとおもて
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
蝶は花野はなのの地にまよ
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
半分は花野はなののごとく明らかである。そうして三四郎の頭のなかではこの両方が渾然こんぜんとして調和されている。のみならず、自分もいつのまにか、しぜんとこの経緯よこたてのなかに織りこまれている。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
野路のじや空、月のなかなる花野はなの惜気おしげも無く織り込んだつづれの丸帯にある。唐錦からにしき小袖こそで振袖ふりそでれ違うところにある。——文明の詩は金にある。小野さんは詩人の本分をまっとうするために金を得ねばならぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)