こむら)” の例文
この五六日水気の来たような感じのあった右の足のこむらの筋が、歩いているうちに張って来たので、老婆はすこし跛を引くようにしていた。
地獄の使 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
松並木の下の、茶店で休むと、こむらに何か重い物を縛りつけているようで、腰も、足も立たなくなってしまった。茶店の亭主が、江戸からと聞いて
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
何故って、ここはお前……お前が何時かこむらを返してしずみ懸った時に、おらがその柔かい真白な体を引抱ひんだいてたすけ揚げたとこだ。
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
膝小僧のあらわな、こむらのたくましく膨れた顔をしかめたような女がくるくるとまわされながらステージの前でいった。
その一年 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
とか何とか掛声をかけると同時に一二歩進み、ひょいと右か左、どっちかの足を曲げて、パン! と靴裏でもう片方の脚のこむら辺を叩く。靴が軟かいし、永年の修練で
茶色っぽい町 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
十二年前熊野の勝浦の漁夫がこの鮫を取って船に入れ置き、こむらを大部分噛みかれ病院へ運ばるるを見た、獰猛な物で形貌奇異だから古人が神としたのも無理でない
腿立ももだちを取ったために見えている右のこむらに一寸ばかりの傷があって、血が絶えず流れている。
三浦右衛門の最後 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
こむらを手当てしてやったばかりの将校候補生の繃帯を今一度解いて、念入りに検査し始めた。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼はそれがすぐ傍につながれたステラの船室かられる明るさなのを了解した。そのとき引き残された窓布のすきに妙に黄ぼけたこむらがふと動いた。彼はすばやく別のふなばたへと跳び移つた。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
脛のほうが屁古たれて参ってしまい、こむらがこむらの役をしなくなると、そこではじめて美脚法の目的を達するわけである。それにしても〈天使のような足〉とはうまくいったものだ。
だいこん (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
こむらつき清げの姫や
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
この候補生は前進の途中、後方から味方の弾丸にこむらを射抜かれたのです。それで匐いながら後退して来る途中、眼の前の十数メートルの処で敵の曳火弾えいかだんが炸裂したのだそうです。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その三度目の逃亡の時に……今朝けさです……ヴェルダンのX型堡塁ほうるい前の第一線の後方二十米突メートルの処の、夜明け前の暗黒くらやみの中で、このこむらを上官から撃たれたのです……この包を妻に渡さない間は
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)