脱捨ぬぎす)” の例文
これはその時脱捨ぬぎすててあった衣裳へ、踊子が勝手次第に勲章を縫付けたためか。あるいは爺さんも年をとって思いちがいをしたためでもあろう。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
此処に若いころは吉原の鴇鳥花魁におとりおいらんであって、田之助と浮名を流し、互いにせかれて、逢われぬ雪の日、他の客の脱捨ぬぎすてた衣服大小を、櫺子外れんじそとに待っている男のところへともたせてやって
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
入替いりかはりて一番手の弓の折は貫一のそびら袈裟掛けさがけに打据ゑければ、起きも得せで、崩折くづをるるを、畳みかけんとするひまに、手元に脱捨ぬぎすてたりし駒下駄こまげたを取るより早く、彼のおもてを望みて投げたるが
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
へやは屋根裏と覚しく、天井低くして壁は黒ずみたれど、彼方かなた此方こなた脱捨ぬぎすてたる汚れし寝衣ねまき股引もゝひき古足袋ふるたびなぞに、思ひしよりは居心ゐごゝろ好き住家すみかと見え候。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
畳を敷かない板のには、歩く余地さえないばかり、舞台ではく銀色のハイヒールやサンダルの、それもひもが切れたり底やかかとの破れたりしたものが脱捨ぬぎすてられ、楽屋用の草履ぞうりや上靴にまじって
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)