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ぬぎす
ひたひたと
絡る水とともに、ちらちらと
紅に目を遮ったのは、
倒に映るという釣鐘の竜の炎でない。
脱棄てた草履に早く戯るる一羽の赤蜻蛉の影でない。
かくいひつつ
被りし帽を
脱棄てて、こなたへふり向きたる顔は、
大理石脈に熱血
跳る如くにて、風に吹かるる金髪は、
首打振りて長く
嘶ゆる
駿馬の
鬣に似たりけり。
入替りて一番手の弓の折は貫一の
背を
袈裟掛に打据ゑければ、起きも得せで、
崩折るるを、畳みかけんとする
隙に、手元に
脱捨てたりし
駒下駄を取るより早く、彼の
面を望みて投げたるが
室は屋根裏と覚しく、天井低くして壁は黒ずみたれど、
彼方此方に
脱捨てたる汚れし
寝衣、
股引、
古足袋なぞに、思ひしよりは
居心好き
住家と見え候。