脚立きゃたつ)” の例文
いまもその本郷の朝の景色が記憶に残っているが、まだ当時は電灯がなく、ガス灯の時代で、脚立きゃたつをもった人夫が点灯して回る時代であった。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
高い脚立きゃたつをかついでかけてきた点燈屋てんとうやさんも、立止ってにこついて眺めている。近所の人たちはいうまでもない、通行の人たちも立止っている。
やがて、三人のくっきょうな店員が、シャツ一枚の姿で、脚立きゃたつやこん棒などを持って、しのび足で、はいってきました。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
丘田医師は、脚立きゃたつの上にあがって、毒劇薬の壜をセッセと下していて、それは余りに遠方に居たから、私の洋服を引張ったのは帆村の外には無い。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
黒衣の男は、脚立きゃたつを片づけて、ちょっと黙祷すると、みんなをあとにのこして去った。磯崎恭介、須美子、伸子と素子。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
砲型は三種あり、その第一が風火砲ふうかほう、第二が金輪砲こんりんほう、第三が母子砲ぼしほう。それの砲架ほうか脚立きゃたつ式で、砲身は台座に乗って、どっちへもうごく仕掛けになっている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きす脚立きゃたつ釣りといふのをやる。海中の浅瀬に脚立を立てて、その上に一人宛乗つて黎明の潮の中を釣る。乗込み鮒は野外散歩で足で釣ると云はれピクニツクの好伴侶だ。
日本の釣技 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
竹やに踏台やら脚立きゃたつやらを持って来させ、女ばかりだから、大変骨を折ってスイッチを元へ戻し、さて明るくなったところで、良人の部屋へ行って見ますと、それはもう
偽悪病患者 (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
白木のもので二段になっている脚立きゃたつ、即ち踏台ふみだいがありますが、組立て方が美しくかつ軽くて使いよくどの家庭でも悦ばれるでありましょう。他では見かけない品であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
小山すみれが脚立きゃたつから下りて、二本の綱を引張って、赤見沢博士の傍へ来た。その綱は、天井かられていた。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
絶えず流れる人群れに交って、伸子のすぐ前を、一人の年よりが歩いていた。脚立きゃたつをたてて、その上へ板を一枚のせて、肉売りがいる。その前へ、年よりがとまった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
廊下に雑巾バケツや脚立きゃたつが出しっぱなしになっているという粗末なビルディングだ。
舗道 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
バッタン! 誰かが後で脚立きゃたつをひっくりかえした。
ズラかった信吉 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)