繊細きゃしゃ)” の例文
岳神の息子夫妻の象徴のように一方は普通の峯かたちで、一方はいくらか繊細きゃしゃで鋭くけも高かった。山の祖神の老いの足でも登れた。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
多い髪であるから、急にはかわかしきれずにすわっていねばならぬのが苦しかった。白い服を一重だけ着ている中の君は繊細きゃしゃで美しい。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
お庄はまた、骨組みの繊細きゃしゃなこの女の姿だけはいいと思って眺めた。髪の癖のないのも取り柄のように思えた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お松に比べると、お君はもういっそう色白で、繊細きゃしゃで、沈んだ美しさを持っていました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それから黄いろくなったつのをすげた、ペン小刀みたいに繊細きゃしゃなナイフと、二叉のフォークと、塩壺とを持って来たが、その塩壺はどうしても食卓の上に真直ぐに立たなかった。
白い繊細きゃしゃな薬指のところに指輪をめた手で、巻煙草を燻すお新の手付を眺めると、女の巻煙草は生意気に見えていけない、そうは山本さんは思わなかった。かえってお新のは意気に見えた。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこらあたりを逍遙そぞろあるきしておって、何の気なしに、ふと己の居間のほうを見ると、壮いきれい女子おなごがいて、寝床の蚊帳を釣っておる、其の繊細きゃしゃな白い手が、行灯の光に浮彫のようになって見えると
人面瘡物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
婆さんはまた繊細きゃしゃな指先を小器用に動かして、例の文銭を並べえた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宮は人目をお避けになるために軽装のお狩衣姿であった。浮舟の姫君の着ていた上着は抱いておいでになる時お脱がせになったので、繊細きゃしゃな身体つきが見えて美しかった。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
親しみのないような皮膚の蒼白あおじろい、手足などの繊細きゃしゃなその体がお島の感覚には、触るのが気味わるくも思えていたのであったが、今朝は一種の魅力が、自分を惹着ひきつけてゆくようにさえ思われた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
白い色紙を立文たてぶみにしてあった。文字も繊細きゃしゃな美しさはないが貴人の書らしかった。宮のお手紙は内容の多いものであったが、小さく結び文にしてあって、どちらにもとりどりの趣があるのである。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)