あや)” の例文
修吉はただ快いあやにのまれて、うつとりと余念を去らずにゐられない。讃嘆の溜息を洩らしかねない思ひになつてしまふのである。
木々の精、谷の精 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
眼もあやな芝生の向うには、したたらんばかりの緑の林が蓊鬱こんもりと縁どって、まるで西洋の絵でもながめているような景色でした。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
東北のは人間生活の歴史のあやがなくて、自然のままの優しい荒っぽさの情感です。
全體が刷毛の一刷ひとはきの樣に殆ど鰭と尾ばかりに見える褐色の小怪魚、鰺に似たもの、鰯に似たもの、更に水底を匍ふ鼠色の太い海蛇に至る迄、其等目もあやな熱帶の色彩をした生物どもが
もうほとんどなおってからのことである、「あや」という覚えのない名の手紙が届き、すぐにひらいてみたが、奈尾はたちまち蒼くなった。一年まえのあの筆跡であった、それはこう書いてあった。
合歓木の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
相談もまとまったのか、その頃に我々の前には金銀や宝石をちりばめて眼もあやに飾った燦爛さんらんたるかごが現れてきたのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
言ひやうもなくあやのある、妖しいまでになまめかしい考へごとが宙ブラリンに浮いてゐて、フォッと眼玉へとびこんでくると脳味噌の中へおさまつた。
全体が刷毛はけ一刷ひとはきのようにほとんどひれと尾ばかりに見える褐色の小怪魚、あじに似たもの、いわしに似たもの、更に水底をねずみ色の太い海蛇に至るまで、それら目もあやな熱帯の色彩をした生物どもが
明け放した廊下からは、例の眼もあやな芝生が、一望遮るものもなくはるかのふもとまで、なだらかに開けています。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
肉慾の上にも、精神と交錯した虚妄の影にあやどられていなければ、私はそれを憎まずにいられない。私は最も好色であるから、単純に肉慾的では有り得ないのだ。
私は海をだきしめていたい (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
眼もあやな一面の大傾斜の向うに、しかも青々とした芝生に掩われたそのうねりの上に、美しい円柱を繞らした白大理石の豪華な殿堂なのでしたが、そこに至る道は
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
人間の肉体には精神が宿り、本能が宿り、この肉体と精神が織りだす独得のあやは、一般的な解説によつて理解し得るものではなく、常に各人各様の発見が行はれる永遠に独自なる世界である。
デカダン文学論 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
しかも眼を挙げて一歩窓外を眺むれば、そこには真昼の陽光が燦々さんさんと降りそそいで彼方の昼なお暗き鬱蒼たる糸杉や、橄欖かんらんの森を背景に、一面の繚乱眼もくらまんばかりあやな花園であった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
さういふ風に一度は考へたに相違ないのは事実であつたが、それはたゞ考へたといふだけのことで、私の情慾を豊かにするためのあやであり、私の期待と亢奮はまつたく好色がすべてゞあつた。
いづこへ (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
人間の肉体には精神が宿り、本能が宿り、この肉体と精神が織りだす独得のあやは、一般的な解説によって理解し得るものではなく、常に各人各様の発見が行われる永遠に独自なる世界である。
デカダン文学論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そういう風に一度は考えたに相違ないのは事実であったが、それはただ考えたというだけのことで、私の情慾を豊かにするためのあやであり、私の期待と亢奮はまったく好色がすべてであった。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)