素袷すあはせ)” の例文
藍微塵あゐみぢん素袷すあはせ、十手を懷に隱して、突かけ草履、少し三枚目染みる子分のガラツ八を案内に、錢形の平次は淺草の隆興寺へ飛んで行きました。
素袷すあはせさむき暁の風に送られて鉄車一路の旅、云ひがたき思を載せたるまゝに、小雨ふる仙台につきたるは五月さつき廿日の黄昏時たそがれどきなりしが、たゞフラ/\と都門を出で来し身の
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
素袷すあはせに、忍びの泥棒がん燈を持つて居りますが、短かい蝋燭らふそくは、投出された時消えたらしく、外には證據になるべきものは一つもありません。
日出ひので前の水汲に素袷すあはせの襟元寒く、夜は村を埋めて了ふ程の虫の声。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
晩秋のある日、神田の裏長屋の上にも、赤蜻蛉あかとんぼがスイスイと飛んで、凉しい風が、素袷すあはせの襟から袖から、何んとも言へない爽快さうくわいさを吹き入れます。
三十前後の小柄な好い男で、素袷すあはせ銀鎖ぎんぐさりの肌守り、腕から背中へ雲龍の刺青ほりものがのぞいて、懷中にはさやのまゝの匕首あひくちが、無抵抗に殺されたことを物語つてをります。
傷は背後から一と突き、左肩胛骨ひだりかひがらぼねの下に、素袷すあはせを通して、恐ろしい正確さで叩き込んであります。
白粉つ氣なしの素袷すあはせ、色の白さも、唇の紅さもなまめきますが、それにも増して、くね/\と品を作る骨細の身體と、露をふくんだやうな、少し低い聲が、この女の縹緻きりやう以上に人を惱ませます。
寒々と素袷すあはせの襟をかき合せ、膝小僧を揃へて神妙らしく控へて居るのでした。
娘を折檻せつかんしてゐたらしい半助は、あわてて素袷すあはせに膝つ小僧を包みました。
十月の素袷すあはせ、平手で水つぱなを撫で上げ乍ら、突つかけ草履、前鼻緒がゆるんで、左の親指が少しまむしにはなつて居るものゝ、十手を後ろ腰に、刷毛先はけさきいぬゐの方を向いて、兎にも角にも、馬鹿な威勢です。
銭形平次捕物控:282 密室 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
八五郎は素袷すあはせの薄寒さうな懷ろなどを叩いて見せるのでした。