素地きじ)” の例文
顔や肌の素地きじ天性うまれつきだから、どんなに磨いたところで、しれていますが、しかし心の化粧は、すればするほど美しくなるのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
それに有利なことにはほとんど一村こぞってこの仕事をする。あるものは素地きじを、ある者は轆轤を、ある者は塗を背負う。こんな事情のいいことはない。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
私の父は潔癖家で、毎朝、自分の使う莨盆たばこぼんの灰吹を私に掃除させるのに、灰吹の筒の口に素地きじの目が新しく肌を現すまで砥石といしの裏に何度も水を流してはらせた。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
素地きじろうたけた官女で、十二単じゅうにひとえかなんぞで出たらよかりそうなものを、鬼に撫でられたんでは、入道もあんまりいい心持もしなかったろうけれど、利き目は確実にあったらしい。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その上、癡言たわことけ、とお叱りを受けようと思いますのは、娼妓じょろうでいて、まるで、そのおんな素地きじ処女むすめらしいのでございます。ええ、他の仁にはまずとにかく、てまえだけにはまったくでございました。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「僕は素地きじのままだ。」とグランテールは答えた。
あまり濃く紅をつけたり、顔一面に厚く白粉を塗ったがために、せっかくの素地きじがかくれて、まるでお化けのように見えることがあります。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
磁器の素地きじに伴う種々煩瑣はんさな工程、これを土素地つちきじに比べるなら如何に大きな差違であろう。おそらく病根は素地を余りにも精製するそのことから発する。
北九州の窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それは単に素地きじ乾燥かんそうがいいとか、塗が丁寧だとか、材料がいいからとかいうことだけではない。想うに村の人々の暮しに誠実なものがあるからである。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
くずの材料は朝鮮から入るといいますが、にするわざは掛川で為されます。昔ははかまかみしも素地きじとして主に織られましたが、今はほとんど皆襖地ふすまじであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
大体飾りのない、素地きじの荒い焼物で、そこに雅致が認められ、茶人たちに好まれたかまであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
今多くの家庭で用いている白い素地きじあいで絵附けがしてある御飯茶碗は、凡て磁器であります。しかるに台所で使っている水甕みずがめだとか、擂鉢すりばちだとか、行平ゆきひらなどは、おおむね陶器であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)