糠星ぬかぼし)” の例文
三十にもならうとするお糸さんは、年齡としの半分も下の姪から愛情をいつも受けてゐた。その時も、糠星ぬかぼしのやうな眼に、急に火がとぼつて
日本橋あたり (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
その頃の事にして時は冬の夜の寒く晴れわたり満天糠星ぬかぼしのこぼれんばかりにかがやける中を、今より姨捨てに行かなんとて湯婆たんぽを暖めよと命ずるなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
宵闇空には細かな糠星ぬかぼしが一面にかがやいて、そこらの草には夜露が深くおりていた。
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
寞々ばくばくとした雲棚引き、東のはてにただ一つ糠星ぬかぼしまたたいているばかり、四方あたり囲繞とりまく峨々たる山は、闇をしのいで黒くそびえ嵐に吹かれて唸りをあげ、山裾を流れる大河の水は岩にかれて叫んでいる。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
月わかく糠星ぬかぼし満てりかくばかりすがしき夜空我は見なくに
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
京枝の弟子の竹子は、かなりの人気者であったが、玉之助が出現して、麒麟児の名を博してからは、月に光りを奪われた糠星ぬかぼしのように影が薄くなってしまった。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
黍畑きびばたの黍の上なる三日の月月よりこまかき糠星ぬかぼしのかず
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)