精養軒せいようけん)” の例文
あなたおひる、まだでしょうね。私もそうなのよ。でもしばらく散歩をつき合って下さらないこと。その代りお話をしてしまったら精養軒せいようけん
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その連中の主催する音楽会が近々築地つきじ精養軒せいようけんで開かれると云う事は、法文科の掲示場けいじばに貼ってある広告で、俊助も兼ね兼ね承知していた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
また何という気分の分散であろう。身も心も境もおしなべて変っている。普請中の精養軒せいようけんで、主人公が外国からやって来た昔馴染むかしなじみの女を待ち受けている。女が来る。
これは日本にいる人で、日本にいる人のある外国の絵でありました。前の二つは帝国ホテル及び精養軒せいようけんという立派な料理屋で見ました。御客様もどうも華やかな人が多い。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それがよほどおかしかったと見えて、帰り道に精養軒せいようけん前をぶらぶら歩きながら、先生が、そのグウ/\/\というかえるの声のまねをしては実に腹の奥からおかしそうに笑うのであった。
夏目漱石先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そうして九月もいつか二十日ほど過ぎた或日、独逸ドイツの婦人が兄の後を追って来て、築地つきじ精養軒せいようけんにいるという話を聞いた時は、どんなに驚いたでしょうか。婦人の名はエリスというのです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
自炊に似た不便な生活も胸に詩興のく時はさしてつらくはなかった。わたしは銀座の近辺まで出掛けた時には大抵精養軒せいようけんへ立寄ってパンと缶詰類を買って帰る。底冷そこびえのする雪もよいの夜であった。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一週間ののち俊助しゅんすけ築地つきじ精養軒せいようけんで催される『城』同人の音楽会へ行った。音楽会は準備が整わないとか云う事で、やがて定刻の午後六時が迫って来ても、容易に開かれる気色けしきはなかった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
オイ、今日はふたりで散歩に出よう。いい天気だ。動物園へ行ってみようか。そして精養軒せいようけんで食事をしようね。うちにとじこもっていたって仕様がない。尾行なんか平気だよ。尾行に精養軒を
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「たぶん上野うえの精養軒せいようけんになるだろう」
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「盛ですとも。ですから僕になんぞ会っている暇がないのも、重々無理はないんです。おまけに僕の行く用向きと云うのが、あの精養軒せいようけんの音楽会の切符の御金を貰いに行くんですからね。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)