粘液ねんえき)” の例文
その褐色かっしょくに黒い斑紋はんもんのある胴中は、太いところで深い山中さんちゅうの松の木ほどもあり、こまかいうろこは、粘液ねんえきで気味のわるい光沢こうたくを放っていた。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分はその手伝いをしながら、きょうは粘液ねんえきの少ないようにと思った。しかし便器をぬいてみると、粘液はゆうべよりもずっと多かった。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
丁稚でつちの品吉は、あまり賢こさうではありませんが、粘液ねんえき質らしくて、正直さうな少年です。
彼ははい廻るときに身体から出る粘液ねんえきの跡をところどころに残すのだった、——グレゴールがはい廻るのを最大の規模で可能にさせてやろうということを考え、そのじゃまになる家具
変身 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
たしかに感じられた手応え、存分なえぐりをよりながら、一角もまたおもむろに槍を戻した。そして、槍の尖端からポト——と糸をいた一滴の粘液ねんえきに、年来の鬱念うつねんを一時に晴らした心地。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この柱頭には粘液ねんえきが出ていて、持って来た花粉がそれに粘着ねんちゃくする。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
洗腸の液はしばらくすると、淡黒うすぐろ粘液ねんえきをさらい出した。自分は病を見たように感じた。「どうでしょう? 先生」
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それから、テーブルの上に残った、ねばねばした悪臭のある粘液ねんえきも、あの怪しい何者かに関係があるように思う。いったい何者なんだろう。人間か、それとも獣か?
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、宵にはもう灯りを消して、武大の寝床へ寄り添って来たりしたが、武大にだって嗅覚きゅうかくはある。その肌には他の男性のにおいが感じられ、その唇には空々しい粘液ねんえきしかないのがわかって
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はたちまち躍りかかると、親蠅の咽喉のどを締めつけた。蠅は大きな眼玉をグルグルさせ、口吻こうふんからベトベトした粘液ねんえきを垂らすと、ついにあえなくも、呼吸がえはてた。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
なんだか黄いろい粘液ねんえきのようなものが、しきりにグルグル渦を巻いているのであった。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
所々にブクブクと真黒な粘液ねんえききだし、コンクリートの厚い壁体へきたいは燃えあがるかのように白熱し、隣りのとおりにも向いの横丁よこちょうにも、暑さに脳髄を変にさせた犠牲者が発生したという騒ぎだった。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)