稚児おさなご)” の例文
旧字:稚兒
続いて黄金丸も垣を越え、家の中を走り抜けんとせし時。六才むつばかりなる稚児おさなごの、余念なく遊びゐたるを、過失あやまちて蹴倒せば、たちまわっと泣き叫ぶ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
ある瞳にきっと射られて、今物語った人とも覚えず、はっと思うと学生は、既に身を忘れ、名を忘れて、ただここのツばかりの稚児おさなごになった思いであった。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日本語の語彙ボキャブラリイは、お前を一晩喋らせておく程豊富には作られてゐない、お前は癇癪で目を泣き腫らし、お前自身が分らなくなる、お前は咄嗟に稚児おさなごの心を決めて
海の霧 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
稚児おさなごの最も敬虔けいけんなる伝統主義、あれどもなきが如き作者意識を以てして、なおこれだけ人望のある昔物語がいつの間にか消え改まり、もしくは新たに美しい芽を吹いたのである。
してその時に自分は稚児おさなご現世うつつよならぬ薄青い夢の世の熱い夏の真昼頃、なんでも広い広い桑畑でただ独り、そのうちをさまよいながら、蜻蛉を取っている姿のありありとして見られたのである。
女子おなご太息といきに胸の雲を消して、月もる窓をひきたつれば、音に目さめて泣出なきいづ稚児おさなごを、「あはれ可愛かあいし、いかなる夢をか見つる。乳まいらせん」とふところあくれば、みてさぐるも憎くからず、「勿躰もつたいなや、 ...
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
やがて、唇にふくまれた時は、かえって稚児おさなごが乳を吸うような思いがしたが、あとの疼痛いたみは鋭かった。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まあ、稚児おさなごの昔にかえって、乳を求めて、……あれ、目を覚す……」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)