こす)” の例文
やがて二の腕へ力瘤ちからこぶが急に出来上がると、水を含んだ手拭は、岡のように肉づいた背中をぎちぎちこすり始める。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ポオル叔父さんは机から封蝋の棒を取つてそれを上着の袖で手早くこすりました。それからそれを小さな紙きれに近づけました。子供達はそれを見つめてゐます。
下草のこすれているところを、少し斜めに歩を移すと、向うの崖に通ずる一条の道がたえだえに見られる。崩れたところを、僅かの足がかりを求めて踏固めたのであろう。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
向うの湯屋では板の間をこする音、男坂下なる心城院の門もしまって、柳の影も暗く、あたりは寝て、切通きりどおしかたには矢声高く、腕車くるまきしるのが聞えたが、重宝なもので
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ダイヤモンドか!」とパーズレイは鼻眼鏡を出して電気に透したり、酔った手許てもと危なくこすって膝の間でもう一度透して見たりしていたが、「ハハア」と意味のわからぬ笑いをニヤリと洩らした。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
と、多四郎は、また額をこすったが
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
したがって早起をして食前浴後の散歩に出たのだと明言する彼らは、津田にとっての違例な現象にほかならなかった。彼は楊枝で歯をこすりながらまだ元の所に立っていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)