石磴せきとう)” の例文
寺の敷地は門よりも低くなっていて、石磴せきとうを下ること五、六段。掃除のよく行きとどいている門内には百日紅さるすべりの花のなお咲き残っているのを見た。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
藪から上は、松の多い山で、赤い幹の間から石磴せきとうが五六段手にとるように見える。大方おおかた御寺だろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
騎者等の我をき往くは、とある洞窟の一つにて、その入口は石楠エピゲエアの枝といろ/\なる蔓艸つるくさとに隱されたり。我等は足をとゞめつ。しづかに口笛吹く聲と共に、扉を開く響す。再び數級の石磴せきとうを下る。
塩竈神祠しおがましんし駅ノ南一里バカリニアリ俗呼ンデ一ノ宮トイフ。(略)乃駅吏ニ命ジ前導セシメ駅ヲ出デヽ左折シテ一山ヲユ。青松茂密スル処ニ到レバ石磴せきとう数百級アリ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
仰数あおぎかぞう春星しゅんせい一二三の句を得て、石磴せきとうを登りつくしたる時、おぼろにひかる春の海が帯のごとくに見えた。山門を入る。絶句ぜっくまとめる気にならなくなった。即座にやめにする方針を立てる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
石磴せきとうを登らむとする時その麓なる井のほとりに老婆の石像あるを見、これは何かとしもべに問へば咳嗽せきのばばさまとて、せきを病むものがんを掛け病いゆれば甘酒を供ふるなりといへり。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
偶然と宿をでて足の向くところに任せてぶらぶらするうち、ついこの石磴せきとうの下に出た。しばらく不許葷酒入山門くんしゅさんもんにいるをゆるさずと云う石をでて立っていたが、急にうれしくなって、登り出したのである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)