石灰いしばい)” の例文
それというのが、時節柄じせつがら暑さのため、おそろしい悪い病が流行はやって、先に通った辻などという村は、から一面に石灰いしばいだらけじゃあるまいか。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
飯のさい奴豆腐やっこどうふを一丁食ったところが、その豆腐が腹へ這入はいるや否や急に石灰いしばいかたまりに変化して、胃の中をふさいでいるような心持である。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これくらい長い間熱すると、人間の肉や皮は燃えおち、人骨じんこつさえ、もう形をとどめず、ばらばらとなって、一つかみの石灰いしばいとしか見えなくなる。
その上から松の枝も見える。石灰いしばいの散った便所の掃除口も見える。塵芥箱ごみばこの並んだ処もある。そのへんに猫がうろうろしている。人通りは案外にはげしい。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
石灰いしばいかな?」と呟きながら、指に付けて嗅いで見て、彼はアッと声を上げた。強い臭気が鼻を刺し、脳の奥までみ込んだからで、嘔吐はきけを催させるその悪臭は、なんとも云えず不快であった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此の赤いぎざ/\になつた口の貝は印度から来たのだ。これはかぶと貝と云ふのだ。中には非常に大きなのがあつて、二つあつたらエミルには運び切れない位だ。或る島に行くと、石の代りに釜の中で焼いて石灰いしばい
何でも薬湯くすりゆとか号するのだそうで、石灰いしばいを溶かし込んだような色に濁っている。もっともただ濁っているのではない。あぶらぎって、重たに濁っている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
橋がペンキぬりになって、黒塀が煉瓦れんがかわると、かわず、船虫、そんなものは、不残のこらず石灰いしばいで殺されよう。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「去年の大掃除の時だ。うちの亭主が石灰いしばいの袋を持ってえんの下へい込んだら御めえ大きないたちの野郎が面喰めんくらって飛び出したと思いねえ」「ふん」と感心して見せる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)