真打しんうち)” の例文
旧字:眞打
「そいつは有り難い思い付きだね。しかし断っておくが、俺はいつでも真打しんうちだよ。前座は貴様か、貴様の娘でなくちゃ御免蒙るよ」
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
明治時代の落語家はなしかと一と口に云っても、その真打しんうち株の中で、いわゆる落とし話を得意とする人と、人情話を得意とする人との二種がある。
寄席と芝居と (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すると向うにゐたAが真打しんうちと云つたやうな格で、更に判決でも下すやうに、あごの先を突き出し乍ら鋭くかう云ひ出した。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
けれども、後で気が着くと、真打しんうちの女太夫に、うやうやしくもさしかけた長柄の形で、舟崎の図は宜しくない。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真打しんうちになったら自分の名をがせてやろうとまで言われるようになったのに、若いとき身を持ち崩したたたりで、悪い病気がとうとう脳にきて、その頃同棲どうせいしていた
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
十二歳の春には、もはや真打しんうちとなるだけの力と人気とを綾之助は集めてしまった。綾之助のかかる席の、近所の同業者は、八丁饑饉ききんといってあきらめたほどであった。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
話は与作が真打しんうちで、町内のもっともらしいのが五六人、番頭の左太松と、倅の甲子太郎と、出入りのとびの頭寅松とらまつと、小僧が二人——吉之助きちのすけ宮次みやじが、大切おおぎりの道具方に廻りました。
真打しんうちは——いずれ、聞いたことのない大看板が、イカサマでおどかすものに相違なかろうが、そのうちにもまた、存外の掘出し物が無いとは限らない——お角は掘出し物に、興味と
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
真打しんうちとして語った矢野津ノ子の「双蝶々廓日記ふたつちょうちょうくるわにっき・八幡引窓の段」を、金五郎は恍惚となって聞いた。まだ二十五六歳の青年であるが、その語り口の巧妙さはほとんどしんに入っていると思われた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
太夫や糸やその他をあわせて十二人が町の宿屋に着くと、その明くる朝、真打しんうちの富子をたずねて来た女があった。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あの鬚男がハドルスキーだな……ともう一度念のために番組を拡げて見るとハドルスキーの名は最後ドッサリ真打しんうち格の位置に書いてある。私はすこし安心した。今のは自分の眼の迷いかも知れないと思った。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それから先はおれも知らねえ。おい、勘蔵。おれにばかりしゃべらせて、なぜ黙っているんだ。前座ぜんざはこのくらいで引きさがるから、あとは真打しんうちに頼もうじゃあねえか
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)