白雨ゆうだち)” の例文
丑紅うしべにのような夕焼けが見渡すかぎりの田の面に映えて、くっきりと黒い影を投げる往還筋の松の梢に、油蝉の音が白雨ゆうだちのようだった。
しかし一度思い立った事を中途でやめるのは、白雨ゆうだちが来るかと待っている時黒雲とも隣国へ通り過ぎたように、何となく残り惜しい。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彫りかけて永き日の入相いりあいの鐘にかなしむ程かたまっては、白雨ゆうだち三条四条の塵埃ほこりを洗って小石のおもてはまだ乾かぬに、空さりげなく澄める月の影宿す清水しみず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
麻生のかたからざあと降り出した白雨ゆうだち横さまに湖の面を走って、漕ぎぬけようとあせる釣舟の二はい三ばい瞬くひまに引包むかと見るが内に、驚き騒ぐ家鴨の一群ひとむれを声諸共もろともに掻き消して
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ある時、私は母親おふくろと一緒に疲れきって、草の上に転んでいると、急に白雨ゆうだちが落ちて来た、二人とも起上る力がないのです。汗臭い身体を雨に打たれながら倒れたままで寝ていたことも有ました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
白雨ゆうだちの滝にうたすやそくいた 孟遠
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
仰ぐとぐるぐる旋転せんてんしそうに見える。ぱっと散れば白雨ゆうだちが一度にくる。小野さんは首を縮めてけ出したくなる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
白雨ゆうだちほらの中なる人の声 畏計
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
僕の近所に南蔵院なんぞういんと云う寺があるが、あすこに八十ばかりの隠居がいる。それでこの間の白雨ゆうだちの時寺内じないらいが落ちて隠居のいる庭先の松の木をいてしまった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
白雨ゆうだちや赤子泣出す離れ家 野角
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「君見たように叡山えいざんへ登るのに、若狭わかさまで突きける男は白雨ゆうだちの酔っ払だよ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)