痴者しれもの)” の例文
外から誰でもわし達を見る人があつたなら、其人はわし達を神の僧侶と思ふよりは寧ろ涜神の痴者しれもの経帷子きやうかたびらを盗む者と思つたに相違ない。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
是が彼の最初の失敗で、学校側の人達は佐藤を忘恩の痴者しれものののしった。斯ういう悪声はぜんを追うて一般に拡がるものである。
あるじに断りもなく手折りかかるような痴者しれものは、その罰で猪弾ししだまでもくらって命を落すのが当然の行きどころ。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
玄竜は痴者しれもののように坐って気味悪げににたにた笑ってばかりいたが、その時ほんの少しの意識のかけらでも閃いたのであろうか、怪訝そうに首を長くして質ねた。
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
云うなッ、どこうそぶいて左様な白々しいが出るのじゃ。汝こそ縁談を退けられたを意趣に含み、大切な娘を誘拐かどわかさんと致した不敵な痴者しれもの、その手先に働く木ッ葉どもを
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが待ちたまえ、あれへ来六屋が逃げてまいる、この痴者しれものはどさくさまぎれに法廷をぬけ出し、雲をかすみと逃亡でござる、それ走れ、もうひと息、——彼は濠を渡り申した。
おめおめと女の尻にしかれてるやうな痴者しれものは一人のこらず死刑にしてやるんだが……。
「今夕から総がかりをかけて、あの有頂天うちょうてん痴者しれものどもを、ひとり残らず洛中から追ッ払え」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ねがひの刑を選ぶべし!⦆かく宣まへばやや暫し、イワンは刑を打ち案じ、思案にくれてゐたりしが、やがて答へて申すやう、⦅にやこれなる悪人は、いと大いなる害毒をわれに与へし痴者しれものなり。
フ、フ、フ、不愍の痴者しれもの、ここまで誘き寄せられたか。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「悪逆無道の痴者しれものとして、三条河原へさらすのよ」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)