おそろ)” の例文
まことにおそろしいと言うことを覚えぬ郎女にしては、初めてまざまざと、おさえられるようなこわさを知った。あああの歌が、胸に生きかえって来る。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
罪あっても罪にむ顔でない、汚れても汚れはせぬ、之に悪人悪女の様に思うては罰が当るとは、殆ど空おそろしい程に思い
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
日頃默つて居る兄の顏などは、私の仕たことに就いて非常に腹でも立てたやうに、餘計におそろしく見えました。其晩に限つて、誰も救ひに來て呉れるものが有りません。
まゆに籠っていたさなぎかわり、不随意に見えた世界を破って、随意自在の世界に出現する。考えてみればこの急激な変貌のおそろしさがよく分る。受身であった過去は既に破り棄てられた。
一口に云えない美しさおそろしさがあります。
併しやがて、ふり向いて、仄暗ほのぐらくさし寄って来ている姥の姿を見た時、言おうようないおそろしさと、せつかれるような忙しさを、一つに感じたのである。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
も日もわかず一室いつしつは、げにおそろしき電働機モオトル
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
姫の行くてには常に、二つの峰の並んだ山の立ち姿がはっきりとそびえて居た。毛孔けあなつようなおそろしい声を、度々聞いた。ある時は、鳥の音であった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
塵にまみるる草原の、その眞中ただなかおそろしき
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
村人の近よらぬおそろしい処だから、遠くから機の音を聞いてばかりいたものであろう。おぼろげな記憶ばかり残って、事実は夢のように消えた後では、深淵の中の機織る女になってしまう。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)