田舎出いなかで)” の例文
たとえば三毛が昔かたぎの若い母親で、玉が田舎出いなかでの書生だとすれば、ちびには都会の山の手のぼっちゃんのようなところがあった。
子猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「お嬢さま、熊井に頼んでおきました、田舎出いなかでの小間使いがお目見得めみえに参りましたが、通しましてもさしつかえございませんか」
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
警視はマリユスに一瞥いちべつを与えた。ヴォルテールがもし田舎出いなかでのアカデミー会員から音韻の注意でも受けたら、やはりそんな一瞥いちべつを与えたことだろう。
この頃は人絹じんけんが大変進歩して来て、下手なメリンスを買うより安いと云うのですから、田舎出いなかでの娘さんたちは、猫も杓子しゃくしもキンシャまがいで押しているようです。
着物雑考 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「ええ、それは、かおがきれいなばかりでなく、お料理りょうりだって、なんでもできたんです。」と、そっけなくこたえた、おくさまの言葉ことばには、おまえのような、田舎出いなかでとちがうという
だまされた娘とちょうの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それとも未来に対する自分の方針が二途ふたみちに矛盾してゐるのか、又は非常に嬉しいものに対して恐を抱く所が矛盾してゐるのか、——この田舎出いなかでの青年には、凡てわからなかつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
仏蘭西フランス風のしま前垂まえだれを掛けた下女が部屋のを開けて、岸本のところへ昼食の時を知らせに来た。下宿でも主婦かみさんめいはリモオジュへ帰って、田舎出いなかでの下女がやとわれて来ていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)