生蕃せいばん)” の例文
おまえたちのうち誰でも、この場に死んだとして、今まで描いたものを後世にのこして恥じないだけの自信があるか、どうだ。生蕃せいばんどうだ。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それから一年おくれて入校した生蕃せいばんとあだなのつく阪井巌という青年が非常な勉強をもって首席で大学にはいったことも同時に聞くがいい。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
恰も、台湾生蕃せいばんの、銃丸を惜むこと生命の如く、一丸空しく発せず、発せば必ず一人をたおすに似たり。実に、思えば思う程、男らしき釣なり。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
これを歴史的にせんさくすれば、「にぎゑびす」に対する「あらゑびす」で、更に砕いて言えば熟蕃じゅくばんに対する生蕃せいばんである。
お父さんに至っては子供の時の修学旅行以外一切東京を離れたことがないから箱根から彼方むこうには生蕃せいばんがいると心得ている。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
むしろ自分の行為を英雄的に自負しているほど生蕃せいばん的で文明人の隣人らしいところがないが、少年の憎む悪は素朴で直接的で、彼の愛している正しさも
たとへていつたら朝と晩、総督と生蕃せいばん、砂糖と樟脳、成功と失敗といつたやうなもので、それを選ぶにしても鉛筆は人間の頭よりもずつと公平に判断するさうだ。
小十郎は夏なら菩提樹マダの皮でこさえたけらを着てはむばきをはき生蕃せいばんの使うような山刀とポルトガル伝来というような大きな重い鉄砲をもってたくましい黄いろな犬を
なめとこ山の熊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それだから大武山は、兄よりも高いのだといっております。(生蕃せいばん伝説集。パイワン族マシクジ社)
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そこへ大森署から電話をかけた司法主任が様子を聞いて、もしやと思って駈付けてみると、そいつが有名な生蕃せいばん小僧という奴で、堀端ほりばた銀行の二千円をソックリそのまま持っていた。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何が奇観だ? 何が奇観だって吾輩はこれを口にするをはばかるほどの奇観だ。この硝子窓ガラスまどの中にうじゃうじゃ、があがあ騒いでいる人間はことごとく裸体である。台湾の生蕃せいばんである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「殺されてもかまわん」と生蕃せいばんは決心した。かれの赤銅色の顔の皮膚ひふ緊張きんちょうしてその厚いくちびるはしゅのごとく赤くなった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
明治二十年頃(?)福岡市須崎すさき台場だいばに在る須崎監獄の典獄(刑務所長)となり、妻帯後間もなく解職し、爾後、数年閑居、日清戦役後、台湾の巡査となって生蕃せいばん討伐に従事した。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
語源的にいうならば、「にぎえびす」に対する「あらえびす」で、日本が台湾を領有した当時の言葉でいうならば、熟蕃に対する生蕃せいばんである。えびすの中の、飼いならされない種類である。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
できあがったものだって見られたざまぢゃない。どうせにごり酒だから濁ってゐるのはいゝとして酸っぱいのもある、甘いのもある、アイヌや生蕃せいばんにやってもまあご免かうむりませうといふやうなのだ。
税務署長の冒険 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
沢本 (諢名あだな生蕃せいばん) │
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
……まあ聞いて頂戴……その大正の十年ごろ静岡あたりを中心にして東海道から信州へかけて荒しまわっていた殺人強盗で、本名を石栗虎太、又の名を生蕃せいばん小僧というのが居りました。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「いつか生蕃せいばんカンニング事件のときにも生蕃は手塚の犠牲ぎせいにされたんだぞ」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)