生温なまあたたか)” の例文
兵士の横腹から出る生温なまあたたかい血が手の甲にドクドクと流れかかると、その傷口から臓腑の中へ、グッと両手を突込みたい衝動に馳られて仕様がない位であった。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
高壇テラース手摺てすりひじをついて、河の方へ低くなってる芝生の斜面を眼の下に眺めた。地面は湯気をたてて、生温なまあたたかい水蒸気が日向ひなたに立ち上っていた。雨のしずくが草の上にひらめいていた。
生温なまあたたかい感触が、私の身内まで伝わっているのを感じると、アア、私はとうとう、矢場やにわに彼女を抱き寄せ、八重歯やえばのふくれ上った、あのモナ・リザの唇を盗んでしまったのである。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼はマリユスの生温なまあたたかい血が自分の上に流れかかって、服の下までしみ通るのを覚えた。
野人ブラームスは、この大先輩にして大御所的存在であったリストの歓待に、ただ驚きあきれるばかりであった。だが、リスト殿堂の中を吹き巻く風は、贅沢ぜいたく生温なまあたたかくて、虚飾と阿諛あゆに満ちていた。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
突然に彼の頬を、一陣の生温なまあたたかい風が、スーッとでた。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
次に耳元に生温なまあたたか呼吸いきづかいがあった。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)