猜忌さいき)” の例文
猜忌さいき、嫉妬、疑惑、さういふものが常に全身を圧した。そして無中むちうに有を見るに苦んだ。時には魂も亡ぶやうな苦しみを苦んだ。
心理の縦断と横断 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
氏郷が家康を重く視ていず、又余り快く思っていなかったことは実際だったろう。秀吉も猜忌さいきの念の無いことは無い。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
不平と猜忌さいきと高慢とですごく光った目が、高慢は半ばくじけ不平は酒にのまれ、不平なき猜忌は『野卑』に染まり、今や怪しく濁って、多少血走っていて
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ほんとうの青年は猜忌さいきや打算もつよく、もっと息苦しいものなのに、と僕にとって不満でもあったあの水蓮すいれんのような青年は、それではこの青扇だったのか。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
国際的猜忌さいき、民族的嫉妬、宗教的悪感が釈然として解け、世界協同の利益を増進し、平和の光明あまねく我が絶東諸国民を照らすの時一日も早く到達せんこと
東亜の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
露西亜ロシヤの社会民主党へ贈りなさる文章に相違無い——両国の侵略主義者が嫉妬しつと猜忌さいきして兵火に訴へようとする場合に、我々同意者は相応じて世界進歩の為めに
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
わが生、と虚弱、加ふるに少歳、生を軽うして身をやぶりてより、功名念絶えて唯だ好む所に従ふを事とす。不幸にして籍を文園に投じ、猜忌さいきの境に身を揷めり。
客居偶録 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
猜忌さいきまなこ でにらんで居るので突然私に向い、あなたはインドに行って来たというがインドにはサラット・チャンドラ・ダースかつてというチベット探検を試みたというに来たことのある人がある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
余は一種猜忌さいきの眼を以て彼等を見送った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
し大王首計しゅけいの者をりたまい、護衛の兵を解き、子孫をしちにし、骨肉猜忌さいきうたがいき、残賊離間の口をふさぎたまわば、周公とさかんなることを比すべきにあらずや。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
不平と猜忌さいきと高慢とがそのまなこに怪しい光を与えて、我慢と失意とが、その口辺に漂う冷笑あざわらいの底に戦っていた。自分はかれが投げだしたように笑うのを見るたびに泣きたく思った。
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「騒いぢやかん、——の松本が例の猜忌さいきと嫉妬の狂言なんだらう、馬鹿メ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
当時なお封建の余力が存在して、始終武断派の勢力あり、薩長あるいはその他の間に絶えず勢力の平均を求め、其処そこに多少の競争があった。人間の弱点で、何としてもその間に猜忌さいき心、嫉妬心が起る。