猛禽もうきん)” の例文
「ふざけちゃいけないよ。野獣猛禽もうきん、何がみ合った血やら知れたもんじゃない。おまえ方は朝ッぱらからわしの家へ因縁をつけに来たのかよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
屋の棟には猛禽もうきんの叫びもなく、籠の中には鷲の子のはばたきもありません。胆吹山の山腹の夜は、更けきっている。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
略奪者たる大貴族の跋扈ばっこした幾世紀かが、一民族の中に、たとえば猛禽もうきん倨傲きょごう貪欲どんよくな面影を刻み込むときには、その地金は変化することがあっても、印刻はそのまま残るものである。
だが私はこの結晶せられた一枚の絵以上に、この猛禽もうきんが有つ壮厳さと権威との美を示し得たものが他にあるかを疑う。民画が現す驚くべき境地である。単純の美を越える美しさはない。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その歩きつきや眼つきを見ていると、何だか猛禽もうきんのように思えてならなかった。
いわゆる鷙鳥しちょうとか猛禽もうきんとか云うものにかぞえられ、前に云ったようなわるいたずらをも働くのであるが、鷲のように人間から憎まれ恐れられていないのは、平生から人家に近く棲んでいるのと
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いったん、よろけ合った二つのからだは、闘鶏師とうけいしにケシかけられた猛禽もうきんのように、また、かたと肩をみあって、んずほぐれつのあらそいをおこした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
事のていを見ると、これはこのほど来、麓の里をおびやかしたところの、子を奪われた猛禽もうきんの来襲に備えるべく村の庭場総代連が警戒の評議をこらすの席とも思われず、さりとて長浜、姉川
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
戦争好きな強健な新時代は、戦いを熱望していて、勝利を得ない前から征服者の心持になっていた。自分の筋肉、広い胸、享楽を渇望してる強壮な官能、平野の上をかけ猛禽もうきんの翼、を誇っていた。
人をのろわばあな二つ、あの猛禽もうきんくさりをきった三人は、立ちどころに、自分がはなしたわしつめにつかまれて、四かれてしまったのにそういない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかに猛禽もうきんが降り立って肉薄してきたっても、戸締りはさいぜんがっしりとしてあるから、室内まで異変を及ぼすということは、ばんないにきまっているが、ここまで来て、ああして騒ぐ上は
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
とまわりを飛びはなれたが、偉大いだいなる猛禽もうきんのつばさが、たッたひと打ち、風をあおるとともに、笑止しょうし笑止しょうし、まるで豆人形まめにんぎょうでもフリまいたように、そこらの草へころがった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奇異なる旅の子魯智深ろちしんは、幾度も山にし、野に枕したが、野獣猛禽もうきんも恐れをなしてか、彼の寝姿と鼾声かんせいのあるところは、自然一夜の楽園と化し、なんの禍いも起らなかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)