物狂ものぐる)” の例文
物狂ものぐるわしいムク犬は、またしてもここを捨てておいて、土間を突き抜けて裏口へ廻ってそこで烈しく吠えます。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
バル まゝ、おこらへなされませい、いかうおいろあをざめて、物狂ものぐるほしげな御樣子ごやうす、ひょんなことでもあそばしさうな。
高徳のひじりが物狂ものぐるおしゅうなったのは、天狗の魔障ましょうではあるまいかなどと、ひたすらに恐れられた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あたいのちゃんはどこにいる、あたいのおふくろどこへ行った、で、あたしがネ、こう、手をかざして、おとっちゃんやおっかちゃんを探してまわる物狂ものぐるいのところね——何度やっても
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
世中よのなかが開けてからは、かりに著しくその場合が減じたにしても、物憑ものつ物狂ものぐるいがいつも引寄せられるように、山へ山へと入って行く暗示には、千年以前からの潜んだ威圧が
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いつも/\見捨てられはせぬかと、男の心の變動を疑ふ物狂ものぐるはしい樣子とは全く變つて、をんなは私が寧ろ氣味惡る氣に目戍みまもる其の顏を見返して、問はるゝまゝに事情を話した。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
海棠かいだうの露をふるふや物狂ものぐるひ」と真先まっさきに書き付けて読んで見ると、別に面白くもないが、さりとて気味のわるい事もない。次に「花の影、女の影のおぼろかな」とやったが、これは季がかさなっている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その嬢子の親御で何とか云う老人がまだ生きていた時分は、もう人の顔さえ見れば、愚にもつかぬ夢物語をまことしやかにふりまいていたと云うので、世間からはまるで物狂ものぐるい扱いにされておりました。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
子を捨てて君にきたりしその日より物狂ものぐるほしくなりにけるかな
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)