無理強むりじ)” の例文
集金に行ってコップ酒を無理強むりじいにするトラック屋の親爺などに逢えば面白いが、机の前に冷然としている、どじょうひげの御役人に向って
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そして飲みたくない酒をめさせられ、食いたくない雑煮ぞうにや数の子を無理強むりじいに食わせられる事に対する恐怖の念をだんだんに蓄積して来たものであるらしい。
年賀状 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
福子は、そのような隠居を見ていると、何がなしかなしくなってくるのだった。みんなの心遣いを喜んで受けている隠居が、何か、その心遣いを無理強むりじいされているように見えてならない。
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
さうとはらずチッバルトどのをおなげきゃるとのみ思召おぼしめされ、そのなげきのぞかうとてパリスどのへ無理強むりじひの婚禮沙汰こんれいざた其時そのときひめ庵室いほりへわせられ、この祝言しうげんのがるゝ手段すべをしへてくれい
そして、やっと客の途絶えた隙を見出した時、そっと私はその飲食店の中に這入って、耳まで熱くほてったまりわるさと自責とを無理強むりじいにしつけて、おずおずと私は小声で頼んでみた。
それから、つらそうに無理強むりじいに食事をつづけようとした。ほとんど何かにとりすがるようにしながら悶え苦しんで食事をろうとする姿は見るに堪えなかった。これははじめて見る異様な姿だった。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
いわば無理強むりじい聞かされた形だったので、単に面白いくらいに思い捨てていたわけだが、それが今、氏が自殺したのだと聞いてみると、当時の氏のはなはだ真剣であった様子や、それからこの物語に
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
今はどうか知らないが昔の田舎の風として来客に食物を無理強むりじいに強いるのが礼の厚いものとなっていたから、雑煮ぞうにでももう喰べられないといってもなかなかゆるしてくれなかったものである。
新年雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)