沓石くつぬぎ)” の例文
彼もそのまま書院のほうへ歩み出し、沓石くつぬぎ草履ぞうりを捨てかけた。——ところへまた、先刻さっき家人けにんが、首を振りながら駈けて来て
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上様うえさまのおいいつけによって、御庭案内といたして黒鍬組頭くろくわくみがしら小早川剛兵衛ごうべえ、只今、竹の間のお沓石くつぬぎにてお待ちうけ申し上げておりまする」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ておれ——という顔つきを持って、その姿が中の木戸まで駈け出した時、なお、書院の沓石くつぬぎに立ったまま考えていた小六が
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
程なく支度を更えて、万太郎が竹の間の沓石くつぬぎへ出ると、廊下には金吾、庭先には黒鍬の組頭くみがしら小早川剛兵衛が平伏しております。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ハイ、ハイ」と、おりんはくるくる舞いをして、彼女と自分の草履を二足、庭の沓石くつぬぎへ移しました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いうと、藤吉郎は、陣草鞋じんわらじを脱ぎすて、小六の腰かけていた縁先の沓石くつぬぎから、ずっと上がって、書院のとこの間をうしろに、自分で上座を取ってったりと坐りこんだ。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今も、脚絆きゃはん草鞋わらじのまま、沓石くつぬぎに居て、縁先に腰をかけている旅商人あきゅうどかのような町人が、部屋の内の兵部と声をひそめて話している。それが、南部坂で笠をとばした男だった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うながして、因幡守いなばのかみは、縁へすすんだ。沓石くつぬぎに新しい草履を見た。又右衛門はかしずくが如く因幡守の後について庭へ出た。菊のつくり方について、因幡守はいろいろな苦心を話した。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこの沓石くつぬぎへ片足をおろした途端に、ガッと、苦い水が口から走った。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
連れ立って、玄関まで歩いて来ると、母の妙秀尼は、もう先に出て二人の穿く新しい緒の草履を沓石くつぬぎへ揃え、その後で、長屋門を閉めかけていた下男と、門の蔭でなにか小声で立ち話をしていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひきのように、のそのそと近づいて、沓石くつぬぎへ腰をすえ、かぶっている布をると、縁にひじをつきこんで、ヘラヘラ笑った。あばた顔だが、その笑い癖は、市十郎の遠くない記憶を、ギクとよび醒ました。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)