沈潜ちんせん)” の例文
氏の表面は一層沈潜ちんせんしましたが、底に光明こうみょうを宿してためか、氏の顔には年と共に温和な、平静な相がひろがる様に見うけられます。
彼はだんだんと自己に沈潜ちんせんして行った。彼はもう、口さきや筆のさきでの運動なんかに興味を失った。彼は彼自身の道を行こうとした。
庵のなかには、めざす丹下左膳がまだ沈潜ちんせんしているに相違ないがカタリとも物音一つしないのは、寝てかめてか……泰軒と栄三郎期せずして呼吸いきをのんだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
自己沈潜ちんせんの深い洞穴ほらあなから、急にあれくるあらしの中におどりだして、胸を張り大声をあげてさけぼうとしている自分自身を、かれはかれの全身に感じていたのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
かくては自分の名声とやらは喧伝けんでんされるにきまっているが、彼は今、決してそんなものを求めていなかった。むしろ、もっと独りの沈潜ちんせんと、独りの黙思もくしとを必要としている。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いえいえ龍は沈潜ちんせんしてこそ、尊くもあれば人にも恐れられ」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かれは、椅子いすにこそ腰をおろしていたが、その姿勢は、あたかも禅堂ぜんどうに足を組み、感覚の世界を遠くはなれて、自分の心の底に沈潜ちんせんしている修道者を思わせるものがあった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)