気色けはひ)” の例文
旧字:氣色
(二人のただならぬ気色けはひに、やや不安を抱くが、例の無頓着さで)お楽みのとこぢやなかつたのかい。
留守(一幕) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
水面は全く水の動揺を収めてこの事件をすこしも暗指あんじしてゐる様な気色けはひがない。ややしばらくすると、童はつひにむなしく水面に浮上つて来て、しきりに手掌てのひらで顔をでた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
うしてるうちに、階下したでは源助が大きなあくびをする声がして、やがてお吉が何か言ふ。五分許り過ぎて誰やら起きた様な気色けはひがしたので、二人も立つて帯を締めた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
太郎は今迄の母に窺はれた陰気な気色けはひが、いつの間にか消え去つて、母ともおもへぬ程若々しく
サクラの花びら (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
つゞいて青木さんが気色けはひで知つて下りて入らつした。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
わがおもかげしめやかにすべせなむ気色けはひにて
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
ベヘモと渦潮うづの発情の気色けはひがすると
日輪のかゞなふ気色けはひ
小曲二十篇 (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
咄嗟とつさの間に渠は、主婦おかみが起きて来るのぢやないかと思つて、ビクリとしたが、唯寝返りをしただけと見えて、立つた気色けはひもせぬ。ムニヤムニヤと少年が寝言を言ふ声がする。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
倉子 (その気色けはひを感じて、静かに後ろをふり向く)どうしたの。もう行くの。
傀儡の夢(五場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
で、膝頭を伸ばしたりかがめたりして見たが、もう何ともない。階下したではまだ起きた気色けはひがない。世の中が森と沈まり返つてゐて、腕車くるまの上から見た雑踏が、何処かへ消えて了つた様な気もする。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)