)” の例文
そして子供たちのお馴染になつてゐる旅館の娘さんが停車場までもつて来てくれた、木からぎ立ての水蜜桃を子供たちに食べさせた。
青い風 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
金三は良平の、耳朶みみたぶつかんだ。が、まだ仕合せと引張らない内に、怖い顔をした惣吉の母は楽々らくらくとその手をぎ離した。
百合 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けれども彼は大てい五度に一度ぐらゐよりそれを捉へることが出来なかつた。ただぎとれた足だけを握つて居たりした。
と、また地べたにぎつ放しの蜜柑が幾山も積んだままになつて、人影ひとつ見えぬ窪畑にもぶつかる、その傍を行くのだから何だかこそばゆい。
蜜柑山散策 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
まるで不意に部屋のやみの中にぎ取られたように、急に見えなくなってしまったんです。けれど私はまだ五分間ばかりそこにじっと立っていました。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
「痛うて泣くんではない。せっかくいだ柿を潰してしまうが惜しいというて、また泣いた。はっはっはっは。」
寛永相合傘 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ゑぐり出し、自分で自分の右手をぎ取るのだ。お前の心臟が犧牲となり、お前はそれを突き刺す僧になるだらう。
妻にその注意をしているとき、夏は、赤児を抱いていたから、わたしはすぐ赤児をぎ取るように抱いた。そして妻にわたした。その晩、赤児は咳をした。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
署長が帆村の手の掌のなかをのぞきこむと、なるほど蠅の死骸だった。やはり翅や脚をがれ、そして下腹部は斜めにちょん切られていた。全く同じ、恐怖の印だ。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
敵将、没羽箭ぼつうせん張清ちょうせいは、はや決死のかくごだったとみえる。たのみにしていた両翼の龔旺きょうおう丁得孫ていとくそんのふたりはすでにられていた。——のみならず賊軍の数は倍加している。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしこういう場合「もうええ」といわれても「そうでござりますか」と引き退さがっては一層後がいけないのである無理にも柄杓をぎ取るようにして水をかけてやるのがコツなのである。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
金六は飛付くと、八五郎の手からぎ取るように、その顔を挙げさせます。
暴風で野菜がことごとくぎ落された親戚たちは、米と交換する材料が無くなって来たのである。それに、復員で若ものの帰って来た漁村の利枝(久左衛門の義姉)の家が、米不足を来している。
風呂ふろへ入るとか、食膳しょくぜんに向かうとかいう場合に、どこにも妻の声も聞こえず、姿も見えないので、彼はふと片手がげたような心細さを感ずるのだったが
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
松の小枝から梢へそれから更に隣りの桜の木へまでもまつはりついた藤蔓は引つぱられて、ただ松の枝と桜の枝とをたわめて強く揺ぶらせ、それ等の葉をぎ取らせて地の上に降らせ