機会はづみ)” の例文
旧字:機會
三千代みちよくちしたのは、どんな機会はづみであつたか、今では代助の記憶に残つてゐない。残つてない程、瑣末な尋常の出来事から起つたのだらう。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
信吾は、其話が屹度きつと智恵子の事だと察してゐる。で、う此女に顔を見られると、擽られる様な、かつがれてる様な気がして、妙にまぎらかす機会はづみがなくなつた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
主人の妻が「あツ、あツ」と夜天に鳴く五位鷺ごゐさぎの様な声をして驚き倒れる機会はづみに鳥籠が顛倒ひつくりかへると、籠の中から隣人りんにんと不義をしためかけなま首があらはれて幕に成つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
足溜あしだまりなくける機会はづみに手の物を取落して、一枚はづれし溝板のひまよりざらざらとこぼれ入れば、下は行水ゆくみづきたなき溝泥どぶどろなり、幾度いくたびのぞいては見たれどこれをば何として拾はれませう
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
出口の階段をくだる時以前は此処ここにタルマの彫像を据ゑてあつたが、ムネ・シユリイが昔国立劇場へはひる事になつて初めて宣誓式の為に此処ここへ遣つて来た時うした機会はづみかタルマの像が動いた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)