樹梢こずえ)” の例文
近き碑を包み遠き雲をかすめつ、そのあおく白き烟の末に渋谷、代々木、角筈つのはずの森は静に眠りて、暮るるを惜む春の日も漸くその樹梢こずえに低く懸れば
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
九日、朝四時というに起き出でて手あらい口そそぎ、高き杉の樹梢こずえなどは見えわかぬほど霧深き暁の冷やかなるが中を歩みて、寒月子ともども本社に至りきざはしを上りて片隅にひかゆ。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
紅蓮白蓮ぐれんびゃくれんにおいゆかしく衣袂たもとすそかおり来て、浮葉に露の玉ゆらぎ立葉に風のそよ吹ける面白の夏の眺望ながめは、赤蜻蛉あかとんぼ菱藻ひしもなぶり初霜向うが岡の樹梢こずえを染めてより全然さらりとなくなったれど
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この銀杏の精もときどきに小児こどもに化けて、往来の人の提灯の火を取るという噂があった。又ある人がこの樹の下を通ろうとすると、御殿風の大女房が樹梢こずえに腰をかけて扇を使っていたとも伝えられた。
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今の汝をそれに比べば獼猴さるの如くに劣りなんと答ふるに、天神はまた栴檀せんだんの木の頭尾もとすえ知れざるものをいだして、いづれのかたの根のかたにていづれのかた樹梢こずえの方ぞ、く答へよ、と問ひなじりぬ。
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)