楔形くさびがた)” の例文
今朝、朝食後、大灌奠式ローヤル・カヴァを見る。王位を象徴する古い石塊にカヴァ酒をそそぐのだ。此の島に於てさえ半ば忘れられた楔形くさびがた文字的典礼。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
兵頭との間は、三間余りも離れていたから、五人の輦台は、二人を、左右へ放して、別々に討取るように、楔形くさびがたになって、追って来た。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「——字は大して違いますまい。言葉の方は昔から大分違って来ていますが——字でも、大昔はあんなのでない楔形くさびがた文字を使ったのです——」
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
広大な庭のあちこちに、篝火かがりび楔形くさびがたに焚かれている、甲胄かっちゅう姿の軍卒が、槍や長柄を輝かせながら、警護している姿が見えた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さしずめ、博士邸の裏に、下水を築く為に置いてある、沢山の石塊の内の一つだということは、楔形くさびがたけずられたその恰好から丈けでも明かである。
一枚の切符 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
此の軍隊の最初の列は何時も楔形くさびがたに並んでゐる。そして列をつくつてゐる毛虫の数がだん/\にふえて来るので、その外の列は、幾分か拡がるやうになる。
すると意外にも、その楔形くさびがたをした破れ目の隙から、濛々たる温泉のような蒸気がほとばしり出たのだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
有名な石郷氏は楔形くさびがたの髭を反らせて、斯う鷹揚に言います。柳糸子の新しいパトロンを以って任じて居る富豪で、言葉遣いの尊大なのは、身分柄のせいばかりではありません。
踊る美人像 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
もはや思念は、鋸と材木に凝りかたまった。唇をひんまげるのだ。腰をかがめて楔形くさびがたの矢を取った。それを木口にはさんで一歩うしろにさがった。手許てもとにあった掛矢をふりかぶった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
一所ひとところ闇が千切られた。そこへ楔形くさびがたの穴が穿いた。焔が楔形に燃え上がったのであった。五人の者は火を囲んだ。風に消されまいと取り囲んだ。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
両河地方メソポタミヤでは埃及エジプトと違って紙草パピルスを産しない。人々は、粘土ねんどの板に硬筆こうひつをもって複雑な楔形くさびがた符号ふごうりつけておった。書物はかわらであり、図書館は瀬戸物屋せとものやの倉庫に似ていた。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それを詳しく云うと、合わせた形がちょうど二の字形をしていて、その位置は、甲状軟骨から胸骨にかけての、いわゆる前頸部であったが、創形が楔形くさびがたをしているので、鎧通し様のものと推断された。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
さて次は奴僕宮ぬぼくきゅう、——おとがいを変えなければなりません。よい頤でございますこと。方潤豊満でございますこと。……これを楔形くさびがたに致しましょう。そうして乱文らんもん斜文しゃもんをつくり、暗濁昏瞑に致しましょう。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
寝椅子へ額を押しあてて、ベッタリ臥伏うつぶせに寝たのである。襲衣の襟が楔形くさびがたに、深く背の方へひかれたためか、背筋まで見せて頸足が、ろくろっ首のように長くなった。そこへ髪の毛がもつれている。
怪しの館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)