東屋あずまや)” の例文
源氏は御簾みすぎわに寄って催馬楽さいばら東屋あずまやを歌っていると、「押し開いて来ませ」という所を同音で添えた。源氏は勝手の違う気がした。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しん吉さんは先月からこの近辺をまわって居りまして、ここでも東屋あずまやという茶屋旅籠屋の表二階で三晩ほど打ちました。
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この世のものとも思えないような匂いを放つすいかずらが一杯にからんだ東屋あずまやにいるような心地がしたことでしょう。
どこへ行ったかと見回すと、はるか向こうの東屋あずまやのベンチへ力なさそうにもたれたまま、こっちを見て笑っていた。
どんぐり (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
起伏する丘や、渓流が流れる岩の谷や、谷や、橋や、ひなびた東屋あずまや等が建造され、そのいずれもが賞嘆に値した。
だから、当直にたたき起された所長の東屋あずまや氏とわたしは、異変と聞くやまるで空腹に飯でもッこむような気持で、そそくさとやみの浜道を汐巻岬しおまきみさきけつけたのだった。
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
そまの入るべきかたとばかり、わずかに荊棘けいきょくの露を払うて、ありのままにしつらいたる路を登り行けば、松と楓樹もみじの枝打ち交わしたる半腹に、見るから清らなる東屋あずまやあり。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
麦藁屋根の東屋あずまやと孤児院らしい建物を眺めているとき、さまざまの往来が心に湧きおこって、伸子はホテルのその室に、鏡つきでない仕事机さえあったらと思っている。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
するとその前の月にも一昨日おととい持って来たとッて、東屋あずまやみやこという人のを新造衆しんぞしゅうが取りに来て
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東屋あずまや以後は技巧も内容にともなって素晴らしいものになった。前篇の紫式部は小説作家として歌人としていみじき作者であって、後篇を書いた大弐の三位は偉大なる文学者だと私は思っている。
その所の真ん中に一間半四方ほどのかやぶきの東屋あずまやを建て、この内に四、五尺四方、高さ三、四尺ばかりに土をもて築き上げ、その上へ碁盤をおき、盤の上に碁器を二つならべ、軒には七五三しめ飾り
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
一足歩みては唄い、かくて東屋あずまやの前に立ちぬ。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
東屋あずまやたるき、縁側の手摺、笊、花生け、雨樋から撥釣瓶はねつるべにいたる迄、いずれも竹で出来ている。家内ではある種の工作物を形づくり、台所ではある種の器具となる。
その小庭は誰のもので、どういうところなのかわからなかったが、大きく枝をはったプラタナスの樹の下に、緑色に塗った東屋あずまやのようなものがあって、その屋根は麦藁ぶきだった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それで、東屋あずまやって人に会って来たんだがな。
動かぬ鯨群 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
この山間の渓流の横手には、苔むした不規則の石段があり、それを登って行くと頂上に鄙びた東屋あずまやがある。ここ迄来た人は、思わず東屋に腰を下して、この人工的の丘からの景色に見とれる。