文身いれずみ)” の例文
見れば判るぜ。明白な青酸中毒なんだ。だが法水君、この奇妙な文身いれずみのような創紋はどうして作られたのだろうか? これこそ、奇を
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
じいっとひとみらすと、大きな蜘蛛くもが、脚をいっぱいに伸して、奇怪な文身いれずみか何かのように、兄の頬にへばりついてるではないか。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
この女は、腹をぐるりと一巻きにして、へそのところに朱い舌を出した蛇の文身いれずみをしていた。私は九州で初めてこんなすごい女を見た。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
隣りに坐りし静岡の商人二人しきりに関西の暴風を語り米相場を説けば向うに腰かけし文身いれずみの老人御殿場の料理屋の亭主と云えるが富士登山の景況を語る。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その手ざわりをなつかしんでいると見せて、その部分にほどこされている隠し文身いれずみを、指先の触覚だけで読みとることを忘れなかった。いや、そればかりではない。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
文身いれずみひとつからだにきずをつけずに、今まで暮して来たのだ——長さんの名前だって、二の腕にれやあしなかった——だけど、ねえ、太夫、おめえの名なら
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
身辺の者や悪行仲間あくぎょうなかまに、そんな微量びりょうな人情でもあることを気取られるのは、ひどく恥辱だと信じ、倶利伽羅紋々くりからもんもん文身いれずみに急所が一ヵ所彫り落ちているような考えで
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幕府の開設した「講武所こうぶしょ」には、庶民のなかから、多くの兵士が集められた。文身いれずみの勇み肌の青壮年が、すすんで護国の軍兵となったのである。農民も、そのなかにいた。
その中の一つは例の文身いれずみの文句と同じ「ビリー・ボーンズ お気に入り」というのであった。
向いの部屋は窓があるので、そっちの方をちょっと覗いて見たら、鍛鉄たんてつで作った上下二段のベッドで、文身いれずみをした先生が寝ていた。それでこの真暗な部屋でも、有難く落着くことにした。
アラスカ通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
と祈るように私語ささやくのは、盲目の老婆の手を引いた、ベズイン族の少女である。両頬に三本細く文身いれずみしてるのが、青い鬚のように見える。「モハメッドのために」幾らかくれと言うのだ。
彼の背中には、一めんに大きな牡丹ぼたんの花の文身いれずみが咲いていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
恐ろしき文身いれずみ
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし、お訊ねにかかわる羅針盤の文身いれずみは、くまなく捜したのでしたが、ついに発見することなく終ってしまいました。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その腕には数箇処に文身いれずみがしてあった。「幸運あり」というのと、「順風」というのと、「ビリー・ボーンズのお気に入り」というのが、二の腕にごく巧みにはっきりと彫ってあった。
今でも文身いれずみをした『アラスカ物語』の映画に出てきそうな男が、首都のフェアバンクスでも見受けられるくらいである。そういう土地にユニバシティをつくっても、学生はそう沢山は集らない。
アラスカ通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
それがちょうど文身いれずみの型取りみたいに、細い尖鋭な針先でスウッと引いたような——表皮だけを巧妙にそいだ擦切創さっせつそうとでもいう浅い傷であって、両側ともほぼ直径一寸ほどの円形を作っていて
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)