掘立小屋ほったてごや)” の例文
それにかれらの住居はといえば、せいぜいのところ犬小屋のような、掘立小屋ほったてごやというようなもので、木小屋などへは住むものではない。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
はたしてこの後をつけて、壺が作爺さんの家へおさまるところを見きわめたのが、日夜左膳の掘立小屋ほったてごやを見張っていた鼓の与吉だ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
九人はそれについて行って見ると、山腹のやや平らかなところを程よくこなして、そこにかなり大きな掘立小屋ほったてごやがあります。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
秋の夜番、冬は雪かきの手伝いなどした親仁おやじが住んだ……半ば立腐りの長屋建て、掘立小屋ほったてごやというていなのが一棟ひとむねある。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
老いぼれて、長い間、掘立小屋ほったてごやの中にねたきりではありましたが、おじいさんは、まだ、世間がどう言うものかと言うことを、忘れてはいませんでした。
あるところは運上所うんじょうしょ(税関)を中心に掘立小屋ほったてごやの並んだ新開の一区域であり、あるところは埋め立てと繩張なわばりの始まったばかりのような畑と田圃たんぼの中である。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
森も畑も見渡すかぎり真青になって、掘立小屋ほったてごやばかりが色を変えずに自然をよごしていた。時雨しぐれのような寒い雨が閉ざし切った鈍色にびいろの雲から止途とめどなく降りそそいだ。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
幾軒かの掘立小屋ほったてごやが、その辺に散在していた。打出瓦うちでがわらを焼く瓦師かわらしの小屋である。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのころわたくしどもは北山きたやま掘立小屋ほったてごや同様の所に寝起きをいたして、紙屋川かみやがわの橋を渡って織場へかよっておりましたが、わたくしが暮れてから、食べ物などを買って帰ると、弟は待ち受けていて
高瀬舟 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ふもとの出張った低いかわらの岸に、むしろがこいの掘立小屋ほったてごやが三つばかりやなの崩れたようなのがあって、古俳句の——短夜みじかよや(何とかして)川手水かわちょうず——がそっくり想出された。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)