捨台詞すてぜりふ)” の例文
旧字:捨臺詞
それでも私が起きずに居ると、仕方なしに、「起きねえと承知しねえぞ。」と今度は「ぞ」の字を使い、多少調子の変った捨台詞すてぜりふで下りて行く。
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と口速に言いてすなわちこれ捨台詞すてぜりふとでも称すべきものならんか、屋台の暖簾のれんを排して外に出でんとするを、老生すかさず、待て! と叫喚して押止め申候。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それで自分の方からせんを越すつもりか何かで、「そうですか、たびたび御足労でした。どうぞ御主人へよろしく」と平仄ひょうそくの合わない捨台詞すてぜりふのような事を云った上
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは力の尽きた神尾主膳が、負惜みから言った捨台詞すてぜりふと思ったからです。この捨台詞で引上げて、母屋おもやへ帰って寝込んでしまうのが落ちだろうと思ったからです。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
又五郎は少し間が悪そうに、ガラッ八の頭から捨台詞すてぜりふを浴びせて家の中へ引込んでしまいました。
そんなけちな根性でよくこんな町中で商売が出来たものだというような捨台詞すてぜりふを云って引き上げてきたが、心ならずも朋輩のお得意といさかいをしたようで気色が悪かった。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
黙っている新子にも、気になるにくらしい捨台詞すてぜりふを残して、サッサと下へ降りてしまった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
政治なんかに用はない、と憤りをひそめた家庭婦人の捨台詞すてぜりふこそ、どんなに、これまでの「政治」に私たち全人民が見切りをつけているかということの端的なあらわれであると思う。
私たちの建設 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「何いってやんでい。溝ッ蚊女郎。」と捨台詞すてぜりふで行き過るのを此方も負けて居ず
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いったんは、懐中ランプを投げすて、捨台詞すてぜりふして去ったのに、よくよく、欲しくてたまらないのであろう。それで、やくざをさしむけたにちがいないが、女一人に、男四人とは仰山すぎる。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「覚えていやがれ!」と瀬川も憤怒ふんどして、捨台詞すてぜりふを残して置いて去った。
呆気あっけに取られている他の連中に向っても子路は挑戦的ちょうせんてきな眼を向けたが、子路の剛勇ごうゆうを知る彼等は向って来ようともしない。なぐられた男を左右からたすけ起し、捨台詞すてぜりふ一つ残さずにこそこそと立去った。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼は絵札を出す時には、片手でトンとテーブルを叩いて、それがクイーンなら『さあ行け、老耄おいぼれの梵妻ぼんさいめ!』またキングなら『行っちまえ、タンボフ県の土百姓め!』などと捨台詞すてぜりふを言ったものだ。
恭一は、捨台詞すてぜりふのようにそう言って、すぐ二階にかけあがった。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
こんな捨台詞すてぜりふを残して立去った。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大地へ打ち倒されたのがどうかして起き上って、命からがら逃げ出した捨台詞すてぜりふのように聞えて、それから後は静かになりました。お松は身体を固くして木蔭に隠れていると
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それじゃ罰の方が欲しいのだな」と後から、捨台詞すてぜりふを投げた。
勲章を貰う話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
捨台詞すてぜりふのようにいい残して、走った。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
お銀様は神尾の挙動がわからないから、この時も負惜みの捨台詞すてぜりふだろうと思って、やはり七分の冷笑気味でおりましたが、暫くして、また足音が聞え出したので、オヤと思いました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)