手柄顔てがらがお)” の例文
きっと手柄顔てがらがお吹聴ふいちょうするに違いない。そうして俺が蜜柑の袋を投げたと分りゃ、皆の頭がそっちへ向かうというもんじゃねえか。
指環 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
江畔こうはんの大地主穆家ぼくけでは、明けがた大勢の客を迎え入れていた。息子二人は手柄顔てがらがおに、江上こうじょうから連れ帰った珍客の宋江そうこうを、まずわが親にひきあわせる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猫のお産の話を事細やかに説明して、「お産の取上爺とりあげじじいとなったのは弁慶と僕だけだろう。が、きょうきみよりは猫の方がよっぽどえらかった、」と手柄顔てがらがおをした。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それらを私は幸田、中西、尾崎の諸君に手柄顔てがらがおをして見せたものであった。
明治十年前後 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
笑わしたり、焦らしたり、どぎまぎさしたりする。そうして、面白そうな手柄顔てがらがおを、母に見せれば母への面目は立つ。兄とはじめに見せれば、両人ふたりへの意趣返いしゅがえしになる。——それまでは話すまい。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今度は粘液もずっとっていた。「ああ、今晩は少のうございますね」手洗いの湯をすすめに来た母はほとんど手柄顔てがらがおにこう云った。自分も安心をしなかったにしろ、安心に近いくつろぎを感じた。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
幸吉こうきちみせかえると、仕事場しごとばっていた叔父おじさんは、さも手柄顔てがらがおをして
花の咲く前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あるいは三角や四角の恋愛を臆面もなく手柄顔てがらがおに告白するのを少しもあやしまない今から考えると、ただこれだけで葬むられてしまったのは誠に気の毒であった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)