扁桃腺へんとうせん)” の例文
この暮から正月にかけて、私は扁桃腺へんとうせんの除去と、蓄膿症ちくのうしょうの手術とのために、K病院へ入院した。二十年来の懸案を片づけるためである。
扁桃腺へんとうせんのことばかり考えていて、みんなの遊びにくるのをわすれていたのだった。れいのなかよし五人、なお話しあっているうちに
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
たちまち彼は扁桃腺へんとうせんを冒されて、家へたどりつくなり、一言も口をきくどころか、全身にすっかりむくみがきて、そのままどっと寝込んでしまった。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
あの女は看護婦でね、僕が去年の春扁桃腺へんとうせんわずらった時に——まあ、そんな事はどうでも好い、とにかく僕とあの女とは、去年の春以来の関係なんだ。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
余は扁桃腺へんとうせんを苦しめられている。昨夜の埃臭い霧が咽喉のどを冒したのである。今は十二時。(一一、一五)
扁桃腺へんとうせんとかで倒れるのが例で、中学から上の学校へ入るのに、二年もつづいて試験の当日にわかに高熱を出して、自動車で帰って来たりして、つい入学がおくれ
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そしてそれをあたかも具体化したように、私の咽喉はへんにえがらっぽくなり出した。どうもすこし扁桃腺へんとうせんをやられたらしい。そうして砂糖なしのポリッジは大へん不味まずかった。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
少なくも、むやみに扁桃腺へんとうせんを抜きたがる医者は今でもいくらもいるであろう。
藤棚の陰から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
淋巴腺リンパせんらすとか扁桃腺へんとうせんわずらうとかして、よく高熱を出すことがあったが、そんな時に二日も三日も徹夜で看護して氷嚢ひょうのうや湿布を取り換える、と云うような仕事に、誰よりも堪えられるのは
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
十七日、磯辺病院へ入院、気管支炎も扁桃腺へんとうせん炎も回復したが、歯を抜いたあとの出血が止まらず、敗血症になって、人々の輸血も甲斐かいなく、二月七日朝絶息、重態のうちにも『歎異鈔たんにしょう』を読みて
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
セレブリャコーフ ツルゲーネフは、痛風から扁桃腺へんとうせんれたという話だ。わたしも、そうならなければいいが、まったく、年をとるということは、じつになんともはやいやなことだな。いまいましい。
「お母様に早く扁桃腺へんとうせんを切れっていわれたぜ。春切るつもりだったのを痛いと思ってのばしておいたんだ。これはきみにも話してあるじゃないか?」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
忙しい最中に銀子の主人は扁桃腺へんとうせんで倒れ、二階に寝ていたが、かつては十四五人の抱えをおき、全盛をきわめていた松の家というその家も、今度銀子が看板借りで来た時分には
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
扁桃腺へんとうせんれて喉が痛む。午食にてんぷらで酒を呑んだのが悪いらしい。ずっと寝た。午後には暴風雨になった。北風でひどく寒かった。夜に入ると南風になりまた妙に暑苦しい。厭な天候だ。
そのつぎの日には富田さんと家庭教師三名がうちそろって伺候しこうした。小さな扁桃腺へんとうせん一つに大きな騒ぎをする。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
銀子も暮から春へかけて、感冒にかかり扁桃腺へんとうせんらして寝たり起きたりしていたが、親爺おやじの親切な介抱にも彼女の憎悪は募り、ある晩わざと家をぬけ出して、ふらふらと栗栖の家の前まで来た。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)