憤怨ふんえん)” の例文
胸に燃ゆる憤怨ふんえんの情を抱きながら、藁しべにでもすがりつきたい頼りない弱い心で、私たちはそれから、二人の在所ありかを探して歩いた。
(新字新仮名) / 金子ふみ子(著)
子供、子供と今が今まで高をくくりし武男に十二分に裏をかかれて、一こう憤怨ふんえんほのおのごとく燃え起こりたる千々岩は、切れよとくちびるをかみぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ただ大きいものは、その欠点までが大きく写ってくるのは、これはやむを得ない。司馬遷しばせんは極度の憤怨ふんえんのうちにあってもこのことを忘れてはいない。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
荒々しい不安なひとみ、広い上衣、それは、十九年間徒刑場の舗石しきいしの上で拾い集めたあの恐ろしい思想の嫌悪けんおすべき一団を魂のうちに隠しながら憤怨ふんえんの情に満ちて
珠玉たまのかんばせに、つねならず血を上らせているのは、心中にむらむらと燃え立ち渦巻く憤怨ふんえんのほむらを、やっとのことでおさえつけているためなのだろうが、しかしよそめには
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ここにおいてしょうは全く重井のためにもてあそばれ、はては全くあざむかれしを知りて、わが憤怨ふんえんの情は何ともあれ、差し当りて両親兄弟への申し訳を如何いかにすべきと、ほとほと狂すべき思いなりしをわれをはげまし
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
胸に燃ゆる憤怨ふんえんの情を抱きながら、わらすべにでもすがりつきたい頼りない弱い心で、私達はそれから、二人の在所ありかを探して歩いた。