愧死きし)” の例文
とかく俳人などという形式のみ殊勝しゅしょうぶり、心にもない隠遁生活をよそおうたりするものが多いが、それは芭蕉のこの一句に愧死きしすべきである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
愧死きしせねばならなくなる。——と、わしが云うとると伝えて、未亡人だけは安全な場所へ連れて行ってくれい。済まんが、君、行ってくれんか
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殊に今日まで褪色たいしょくもしないでいる紺青臙脂えんじの美は比類がない。アニリン剤の青竹や洋紅に毒された世界近代の画人は此の前に愧死きしするに値する。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
それは、自分の失策をつぐなうために、京子を愧死きしせしめることである。人間として、そんなことは死んでもいえなかった。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
茶屋小屋を飲みまわる。女性を引っかけまわるといったような下司っぽい増長者は、こうした翁の謙徳と精進に対して愧死きししても足りないであろう。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
もしも私が、読者にむかって、耐乏生活の小説などを書き、ヤミの悪徳を説いたなら、文士としては愧死きしすべきことであり、かかる徒輩は文学者として存在しえないものである。
帝銀事件を論ず (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
全篇の人物、活けるがごとく写しだされているのは圓朝の話術が迫真だからで「皮相を写して死したるが如き文」している手合は圓朝の前に愧死きしせよとまで激賞しているのである。
『ツィゴイネルワイゼン』はこうひくもの、『ロンド・デ・ルタン』のピチカットはこんな具合に——などと、技巧の末に神経を使うやからは、まさに愧死きししてもいいくらいのものだ。
青天にも白日にも来り、大道の真中にても来り、衣冠束帯の折だに容赦なくたつを排して闖入ちんにふし来る、機微の際忽然こつぜんとして吾人を愧死きしせしめて、其来る所もとより知り得べからず、其去る所亦尋ね難し
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
愧死きししても足りません。大酔していたため、ついその……後閣へはしって、城外へお扶けするいとまもなく」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
精動運動を必要とするやうな現代の国民は、愧死きししてもいゝくらゐである。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
いや堪え難いのみでなく、生身なまみの体だ、その苦痛にちきれなくなって、この口から、万一にも、勤王方の不利なこと一点でも洩らしたら愧死きししても足りないことだ。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愚や、愚や、この鈍児どんじ、賢友を仰いでなんぞ愧死きしせざるや。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)