惣髪そうはつ)” の例文
旧字:惣髮
菊五郎の光俊は惣髪そうはつにて、金の新月の前立物ある二谷にのたにといふかぶとを負ひ、紺糸おどしよろい、お約束の雲竜の陣羽織にて立派なり。
と、精々いなせに飛びこんでゆくと! 聞き覚えのある謡曲の声とともに、よもぎのような惣髪そうはつのあたまが一つ、せまい湯船の隅にうだっている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
従前通りの惣髪そうはつを整理して、念入りに撫でつけて、別製の油でもつけさえすれば仕事が済むのだと、無雑作むぞうさに考えて、先生の頭へくしを当てようとすると
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
評判の惣髪そうはつやっこびんに剃り落して商人に化け、備中つれ島の三宅定太郎を頼って、さしづめ別宅の鉄物店に番頭と称して居ることになったがその後一年ばかり、本人手記によると
志士と経済 (新字新仮名) / 服部之総(著)
すると一室に、赤い広袖を着た人物が、惣髪そうはつの頭を下げ、大小を前へさし出して
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
眺め「おいとしや親父様、己の性根しょうねが悪い故」にて自分を指し「御相談の相手もなく、前髪まえがみの首を惣髪そうはつにして渡さうたあ、量見ちげえのあぶねえ仕事だ」
髪は惣髪そうはつに結んであるので、一見、女にも見まほしいといったような優男やさおとこには見えるが、そこに、なんとなく稜々たる気骨の犯し難きものを、白雲が見て取りました。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
祭文語りは惣髪そうはつを肩にかけ、下頤したあごひげを生やし、黒木綿を着て、小脇差を一本さし、首に輪宝りんぽう輪袈裟わげさをかけ、右の手に小さな錫杖しゃくじょう、左には法螺ほらの貝、善光寺縁起から
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
惣髪そうはつにして二つに撫でつけた塚原卜伝つかはらぼくでんの出来損ないのような親爺が、まさか長者町の道庵だとは思われませんから、やはり、変な親爺が、世話を焼いているなぐらいの程度で
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
但しその道庵先生でないことは、頭が慈姑くわいでなく、正雪まがいの惣髪そうはつになっている。道庵先生よりもう少し色が黒く——皮肉なところは似ているが、あれよりまた少々下品になっている。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)