恩愛おんない)” の例文
「それも、子がかわいさの一心。恩愛おんないの情というのは、えらい働きをするものですな。……盗りもせぬものを盗ったなどと言われるのも、ふしぎのひとつで……」
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
必死でつかんでいたあのお方のたもとを離して、もう、今生の恩愛おんないを断ったと覚悟したのですから、たとえ、武蔵様の居所が分っていても、武蔵様のおゆるしがなければ……
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よしや此縁このえんいとひたりとも野末のずゑ草花さうくわ書院しよゐん花瓶くわびんにさゝれんものか、恩愛おんないふかきおやさせてれはおなじき地上ちじやう彷徨さまよはんとりあやまちても天上てんじやうかなひがたし
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
生死しょうじ沈溺ちんできし、ただある者のみ恩愛おんないむさぼらず、経戒を勤修ごんしゅうす。識想を滅除し、生死尽くるを
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
成経 (かたわらに人なきがごとく)なつかしい母上よ、あなたの恩愛おんないが身にしみまする。(今ひとつの手紙を読む)妻よ、お前の苦しみは察するにあまりある。どんなに会いたかったろう。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)