恋人こいびと)” の例文
旧字:戀人
前夜恋人こいびとの父から絶縁の一書を送られて血を吐く思の胸を抱いて師団の中尉寄生木やどりぎの篠原良平が見物に立まじったも此春光台であった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
単にを見合すだけで、一切の意味が了解りょうかいされる恋人こいびと同士の間には、普通の意味での言葉や会話は、全く必要がないのである。
「あっ」という恋人こいびとさけび声を耳にしたと思ったつぎの瞬間しゅんかん、若者は自分のからだ羽根はねぶとんのようにかるがると水の上に浮かんでいることに気がついた。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
てかくれているうちわたくしは恋人こいびとがあってこのまま出家にかえるのをやめようかと思ったのです。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
心の中では、むかしの恋人こいびとのことを思っているのでした。でも、話を聞いているうちに、これが、あのときのまりだということが、だんだん、はっきりしてきました。
私がそれまで昔の恋人こいびとに対する一種の顧慮こりょから、その物語の裏側から、そしてただ、それによってその淡々たんたんとした物語に或る物悲しい陰影ニュアンスあたえるばかりで満足しようとしていた
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
返事は多分、向うに着いて貰えるだろうと思いましたが、その、つぶらなひとみをした、お嬢さんには、すでに恋人こいびとがあったかも知れないとおもうと、気恥かしくなって来て、めにしました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「なりましょう。おしどりになりましょう。」「それでは今晩こんばん月が出てから、恋人こいびとをともなってここへ出ていらっしゃい。」と老人はいった。若者は約束やくそくをした。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
三、ノルデは書記しょきになろうと思ってモネラの町へ出かけて行った。氷羊歯こおりしだの汽車、恋人こいびと、アルネ。
恋人こいびとの役をやるときには、お客の中の、ただひとりの女の人のことだけを、心に思いうかべて、その人のために役を演じて、ほかのことは、小屋からなにから、いっさい忘れてしまうというのです。
「わたしもそのお方にお願いしておしどりにしていただきます。」と恋人こいびとは、あたたかい手を若者の手の上にかさねていった。「それは真実しんじつの心か。」と若者は念をおした。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
烏の義勇艦隊はもう総掛りです。みんな急いで黒い股引ももひきをはいて一生けん命宙をかけめぐります。兄貴の烏も弟をかばうひまがなく、恋人こいびと同志もたびたびひどくぶっつかり合います。
烏の北斗七星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ある時は畜生ちくしょうすなわち我等が呼ぶ所の動物中に生れる。ある時は天上にも生れる。その間にはいろいろの他のたましいと近づいたり離れたりする。則ち友人や恋人こいびとや兄弟や親子やである。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
 恋人こいびとアルネとの結婚けっこん……夕方。