怪訝かいが)” の例文
知識と経験とが相敵視し、妄想もうそうと実想とが相争闘する少年の頃に、浮世を怪訝かいが厭嫌えんけんするの情起りやすきは至当の者なりと言うべし。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
およそ人種または時代を異にせる芸術に接して能くその性質を明かにせんと欲すればづそのものに密接して怪訝かいがの念を去らしむるにあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
(画家は相手を凝視しいる。令嬢は相手の目の内に現われたる怪訝かいが、恐怖を排し去らんとする如く、拒む手付を為して。)
俊助はわずか十分ばかりの間に、造作なく「倦怠」を読み終るとまた野村の手紙をひろげて見て、その達筆なぎょうの上へ今更のように怪訝かいがの眼を落した。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それは皆怪訝かいがするとともに喜んだ人たちであるが、近所の若い男たちは怪訝するとともにそねんだ。そして口々に「岡の小町が猿のところへ往く」と噂した。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
わし怪訝かいがに堪えんもんで、早急さっきゅうとはなしに、本郷方面へ、同僚の筋を手繰ってさぐりを入れると、葛木晋三と云う医学士はいかにもあるじゃね、そしてです、それは医科に勤めておらるるが、内科
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
補ふにしばしば戯作者風の可笑味おかしみ多き空想を以てしなかば支那なかば西洋の背景に浮世絵在来の粉本にもとづける美人を配合するなぞかへつて能く怪訝かいが好奇の感情を表白せる事を喜ぶ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかも裁判さいばんを重ねた結果、主犯しゅはん蟹は死刑になり、臼、蜂、卵等の共犯は無期徒刑の宣告を受けたのである。お伽噺とぎばなしのみしか知らない読者はこう云う彼等の運命に、怪訝かいがの念を持つかも知れない。
猿蟹合戦 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それを分析したら、怪訝かいがが五分に厭嫌えんけんが五分であろう。秋水のかたり物に拍手した私は女の理解する人間であったのに、猪口の手を引いた私は、たちまち女の理解することあたわざる人間となったのである。
余興 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
清岡は四、五けんこちらから、白っぽい絽縮緬ろちりめんの着物と青竹の模様の夏帯とで、すぐにそれと見さだめ、怪訝かいがのあまり、車道を横断して土手際の歩道を行きながら女の跡をつけた。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
梅は怪訝かいがの目をみはった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)