微温ぬる)” の例文
新吉は微温ぬるい茶をんで出しながら、「あたしなんざ駄目です。小野君のように、体に楽をしていて金をける伎倆はたらきはねえんだから。」
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
是においてか、情愛は會得ゑとくの作用にともなふがゆゑに、かれらのうちのうるはしき愛そのあつ微温ぬるさを異にす 一三九—一四一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
此家こゝへ來れば酒を飮むものとめてゐるらしい道臣は、直ぐ盃を取り上げたが、かん微温ぬるさうなので、長火鉢の鐵瓶の中へ自分に徳利をけた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
玉を溶かしたように美しいが、少し微温ぬるいので、いつまでもつかっていなくてはならない。流し場もなければ桶一つない、あたりに水もない殺風景なものだ。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
浅い透明な湯が、桃色の皮膚に映えて揺れていた。ブラドンは自分も衣服を脱ぐていをしながら、湯の中へ手を入れてみた。そして、すこし微温ぬるいようだといって、湯のせんひねった。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
葡萄酒ぶどうしゅかった。音楽は人にびるように聞えて来る。夏のの人を酔わせるような微温ぬるみがある。男はちょいと女の目を見た。その目の中には無限の愛情と好意とが輝いていた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
ただ、その水甕の水は、泉がそれほど遠くないのに、道で少し微温ぬるくなっていた。
あるいは畑のかなたの萱原に身を横たえ、強く吹く北風を、積み重ねた枯草でけながら、南の空をめぐる日の微温ぬるき光に顔をさらして畑の横の林が風にざわつききらめき輝くのを眺むべきか。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
田圃たんぼの上の空気はかすかに微温ぬるい。
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)