得上えあ)” の例文
じっと、狭い肩身をすくめ合ったまま、潮田又之丞、小野寺幸右衛門、武林唯七の三名は、顔も得上えあげずに、暗い川面かわもを見つめていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はれて權藏ごんざうは、『わかりました、難有ありがたぞんじます』とつたぎり、感泣かんきふしてしばらくはあたま得上えあげませんでした。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
彼女は室内に這入ると、そのまゝベタンと板の間の上へ坐って頭も得上えあげず、作りつけた人形のようにじっとしていた。後れ毛が白い頸の上で微におのゝいていた。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
あくまで素人らしく見せるが高等の得手えてなれば、女中の仕度して下へ行くまでは座敷の隅に小さくなつて顔も得上えあげず、話しかけても返事さへ気まりわるくて口の中といふ風なり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
伊豆守幸豐君いづのかみゆきとよぎみ御手おんてひざたまひ、かうべ得上えあげで平伏へいふくせる何某なにがしをきつと
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)